世界で10,000校規模の導入実績! ノルウェー発 オルヴェウス・いじめ防止プログラム
前回、NPO法人フレンズネット北海道様のご紹介をさせていただきました。
このフレンズネット北海道では、ノルウェー発のいじめ防止プログラム、『オルヴェウス・いじめ防止プログラム』の日本への導入を推進しています。このフレンズネットのメンバーが翻訳した、『オルヴェウス・いじめ防止プログラム 学校と教師の道しるべ』が、2013年12月27日に発売されています。
この本を翻訳することにした経緯は、世界中で実績を挙げているから、ではありません。フレンズネット理事長の小林公司氏は、自身のお子様を通して経験した、学校でのいじめに関する対応の中で、さまざまな対応方法を調査し、学校などに提言を行ってきました。その中で最終的にたどり着いたのが、この『オルヴェウス・いじめ防止プログラム』だということです。
私もフレンズネット様で講演の際には、この本を熟読し、講演テーマであった『ネットいじめ』と『いじめ防止プログラム』との関連について、お話させていただきました。
今回はこの本と、世界中で実績を挙げている『オルヴェウス・いじめ防止プログラム』について、また、このプログラムとネットいじめとの関連について、説明させていただきます。
プログラムの概要
このプログラムの最終目標は、以下の3点です。
- 生徒間のいじめを減らすこと
- 新たないじめの拡大を防ぐこと
- 学校でより良い仲間関係を作り上げていくこと
これを実現するために、学校と教師がどのようにいじめに向き合っていくか、その方法について、心構え、日々行うこと、といったレベルで具体的に定義したものです。
特徴として、『大人による介入』があると、理解しています。メディエーション(仲裁)などでは、メディエータ―(仲裁者)は中立的立場で仲裁を行います。決定的な違いとして、このプログラムでは、大人が「いじめはダメ!」と明示する点があります。また、いじめ発生時には、大人が直接介入して話し合いにより解決に導くという点があります。
プログラムの教材として、この本は『学校版ガイド』と『教師版ガイド』、『実態と効果把握のためのアンケート』から成ります。
具体的になにをするのか?
下記4つの対象に向けて、その具体的行動が定義されています。
要約して記載します。
学校全体に向けた実施内容
- 「いじめ防止協議委員会」を設置する
- アンケートを実施する
- スタッフミーティングを定期開催する
- いじめに関するルールとペナルティを導入する
- 生徒の見守りを行う
- 保護者を巻き込む
クラスに向けた実施内容
- いじめに関するルールを守らせる
- クラスミーティングを定期開催する
- 保護者ミーティングを定期開催する
個人に向けた実施内容
- いじめが起きたときに全てのスタッフが即座に介入する
- いじめに関わりのある生徒と話し合う
- いじめに関わりのある生徒の保護者と話し合う
地域に向けた実施内容
- 地域住民の参加、協力関係の構築
- 地域に活動を広げる
4つのルールとFilii(フィリー)
ここで、私が注目しているポイント、『4つのルール』についてご紹介いたします。
これは、上記実施内容の中で、『いじめに関するルール』として、プログラム中で繰り返し説明されているものです。生徒が守るべきルールです。
- 私たちは、他の人をいじめません。
- 私たちは、いじめられている人を助けます。
- 私たちは、一人ぼっちの人を仲間に入れます。
- 私たちは、もし誰かがいじめられていれば、それを学校の大人や家の大人に話します。
4つめを強調しました。手前味噌で恐縮ですが、
これをシステムで実現する仕組みが、まさにFilii(フィリー)です。
Filiiは、親子の間で、『ネット上何かあった場合に、それを自動的に伝える仕組み』です。
図らずも、『オルヴェウス・いじめ防止プログラム』で強調するルールの1つと一致したものになっています。
ネットいじめとの関連
先日のセミナーでもお話させていただいた、プログラムとネットいじめとの関連について、簡単に説明させていただきます。
この本の中でも、『いじめに関する風説』の節で、『ネットいじめ(サイバーいじめ)』については少しだけ触れられています。ただ、その内容は1ページ程度で、踏み込んではいません。学校内でどの程度、どのような方法でネットいじめが起きているかを注視すべき、というような記述のみです。
ネットいじめを発見した場合に、オルヴェウス・いじめ防止プログラムで対応できる(すべき)範囲なのかは、まず、リアル(普段の生活での)接点の有無で、場合分けして考える必要があると、考えています。
このプログラムは学校に適用するもののため、ネット上からの視点では、まずこの点を確認する必要があります。併せて、本の中でも触れられているように、学校側からの視点で、生徒の間でネットいじめが起きているかを注視していく必要があります。この2点の視点から、実態を把握し、場合分けする必要があると考えます。
※ただし、実際は接点の有無を判断できない場合も多いと思います。
【リアル接点のあるネットいじめ】の場合
リアル接点があると判断できた場合でも、学校内なのか、外なのかで対応が変わってくると考えます。
学校内であれば、他の案件と同様に扱え、介入することができます。
実際のところ、生徒の地理的行動範囲は限られるため、リアル接点がある場合でも、少なくとも自治体内である可能性が高いと考えることができます。自治体や学区(教育委員会レベル)で関与できていれば、これに介入することができます。
【リアル接点の無いネットいじめ】の場合
直接の対話が難しいため、プログラムによっての対処は難しいと考えます。
さらにこの場合、いじめた側の個人を特定することは、比較的難しくなります(可能ではあります)。ネット上で対話に応じるかどうかは自主的なものであるため、対話を行うが難しいと考えられます。対話に応じさせる強制力がありません。
こちらについては、プログラムの適用を考えるよりは、通常のネットいじめの対策を取る方がよさそうです。
いじめられている側は当該サイトにアクセスしないようにする、いじめる側の首謀者特定を進めるとともに、書込みなどのデータは永久保存・拡散の恐れがあるため、削除依頼を行います。専門家などを通して法的手段の利用を考える必要もあるでしょう。
プログラム実施に関しての懸念
ここからは私の所感になります。
こう、上記の実施項目と、本に記載の具体的な進め方を読むと、「とても手間がかかる!」という感想を持ちます。
学校や地域全体の、かなり多くの人材の協力が必要です。これらを統括する『プログラム・コーディネーター』に選任する人材には、高いコミュニケーション、ファシリテーションスキルや、地域関係者からの信頼が必要です。簡単には適材が見つからないかもしれません。
日々の見守り活動や定期ミーティングなど、教職員スタッフの負担は小さくはありません。
また、スタッフとして参加する教職員や学校関係者、保護者へのトレーニングが必要です。海外ではトレーニングプログラムがあるようですが、日本国内ではまだ導入されていません。
多くの人が情熱を持って、毎日取り組んでいく必要のあるプログラムになります。本には、「学校単位や学区(教育委員会の単位)で取り組む必要がある」と書かれています。なかなか実現の難しい話でしょう。
とは言え、既に多くの実績のある有効なプログラムです。是非日本への普及も進めて欲しいと願っています。
まずは、学級単位などで実施できる方法、かつ、日本の教育事情に合わせて変更を加える(ローカライズ)ところからでしょうか。
実施規模が小さくなれば、関わる人数少なくなります。それに伴い、『プログラム・コーディネーター』に求められるスキルや資質も、もう少し緩いものになるでしょう。定期ミーティングや日々の業務に携わる人数や、見守る範囲も狭まります。トレーニングに関しても、フレンズネットなどの単体のNPOで直接行える人数になるでしょう。
まとめ
世界中にはさまざまな考え方があり、これもその中の1つにすぎない考えることができるかもしれません。
しかし、既に実績が出ているプログラムです。欧州とは文化や習慣など、異なる部分はあれど、日本に合わせたかたちで導入することで、効果が期待できると思います。机上で検討を重ねるだけでなく、ぜひ小規模なかたちからでも、導入検証を実際に進めていけると良いと思います。
『オルヴェウス・いじめ防止プログラム』にご興味をお持ちの学校関係者の方は、ぜひNPO法人フレンズネット北海道に相談してみてください。