SNSリアル・ファイル[2]:「ウソ告」の仕組みと対処法、こそっと教えます。
SNS(主にLINE)を使って好意のない相手に嘘の告白をするゲーム感覚の悪行「ウソ告」が、数年前から今もなお中学生の間で流行っています。
今年6月には神戸市教育委員会が市内全域の中学生6,700人を対象にネットに関する独自の意識調査を実施。その後、実態を踏まえたアンケート調査が行われ、その分析結果が公表されました。
記事によると、ネットで告白する/告白されることについて、「1.絶対イヤ」と回答した中学生が40%、「2.相手によっては良い」が37.1%、「3.良い」が22.9%です。この結果を見ると、中学生の感覚では6割がネット経由の告白を(条件付きではありますが)肯定していることがわかります。
このような中学生の感覚や実態について高校1年生40人に聞いたところ、「まぁ、わかる」という反応が大半でしたので、その中の数人にネット経由の告白そして「ウソ告」という現象について詳しくインタビューをしてみました。すると否定的かつ客観的な意見や認識を持っていることがわかりました!
そこで本稿では高校生や大学生へのインタビューから得られた情報や事例をもとに、「ウソ告が実行されるプロセスと被害が拡大する理由」、「ウソ告に対する高校生の反応」、そして「ウソ告」の被害を防止する方法として、「ネット経由の告白をなぜ真に受けてはいけないか」という理由について、心理学者のメラビアンが実証研究した「コミュニケーションの3要素」を頼りに解説します。
【1】「ウソ告」の実態
高校生に対して、中学生の頃にあった「ウソ告」の事例を聞いてみたところ、主に以下の2つの事例に分けられました。
【事例①】
ある人(ターゲット)の好きな人を知っている人(たち)が、その意中の人の名前を使ってターゲットに対してウソで好意的な内容のLINEや手紙を送り、放課後に呼び出してからかう。
【事例②】
『真実か挑戦か』というゲームで「挑戦」を選んだ人がみんなの前でLINEを使って任意の誰かに「ウソ告」する。(脚注1)
上記2つの事例はどちらも第三者がゲーム感覚でターゲットの恋心を弄ぶ悪行であり許されることではないですが、分析すると事例①にあって事例②にはない重要な違いがあります。それは、悪行を企てた仕掛け人(たち)とターゲットにされた人が実際に対面しているか否かということです。
事例①の場合は、告白を装った呼び出し(「ウソ告」)に引っかかったことをからかうと同時にネタバレが成立(いわゆる「ドッキリ大成功!」(脚注2)的な演出)するので、関わった者たちをう含めてその計画の全貌が可視化されることは大きな違いです。
事例②の場合は、誰がどのような経緯で計画し、誰が加担して実行するに至ったのか、ターゲットにされた被害者は知る由もありません。
【2】オンライン経由の「ウソ告」が悪どい理由
他方で、事例②の場合はゲームの一環として「ウソ告」が行われています。さらに企てから実行までのプロセスはスマホ経由(主にLINE)のオンラインで展開(完結)され、実際にターゲットと対面することもないため、行為を躊躇するような段階がありません。
また、「ウソ告」の文面(テキスト)も数秒から十数秒のフリック入力で済ませる人が多い(LINEの場合は長文が避けられる傾向にあり、また絵文字やスタンプを多用する人があえて絵文字やスタンプを使わないと「ウソ告」のリアリティが高まる)という意見が聞かれました。
これでは、罪悪感(加害者意識)は希薄にならざるを得ません。しかも「ウソ告」することがゲームの一環であれば、そこに真剣さなど皆無であり一過性のものとして右から左に流れてしまうでしょうし、事例①のように全体像が可視化されることもなく、「ウソ告」された側は(相手や文面による程度の差こそあれ)悶々とした気持ちが残ったままでしょう。最近では、「ウソ告」がジャンケンの罰ゲームにすらなっているとか…。
【3】スマホを介した「ウソ告」の仕組みとリスク
先述したように最初から「ウソ告」することを目的としているよりも、中学生の間では仲間内で遊ぶゲームの手頃なペナルティやチャレンジ(挑戦)のひとつとして「ウソ告」が認知されていることが流行の一因と言えます。
しかもスマホを介してターゲットと対峙せず行為に及ぶわけですから、事前に思い留まろうとする罪悪感や不安感も希薄であり、さらに【図1:「ウソ告」が悪質化するフローチャート】のように、SNSがらみのトラブルに発展するリスクも充分にあります。
その結果、ターゲットの心や人間関係を傷つけるだけでなく、SNS上にそのやりとりが流出し、不特定多数に晒されてしまうなど、取り返しのつかない事態にまで及ぶことすらあるのです。
【4】「ウソ告」に対する高校生の反応
私、中学生の頃引っかかったことあるんですよ…。
超ばかにされた…というか、冷ややかな目を向けられる感じでした。
直接言われたわけじゃありませんが、「なに本気にしちゃってんの?」みたいな。
私がふらふらしていたのも悪いんですけどね…。
それ以来、他人の目を気にしすぎてしまうというか、自信を持って自分を出せないんですよね。
自分のことが嫌いなわけではないんですけど…。
実際に「ウソ告」の現場を見たことはないのですが、話を聞いていると、やっぱり嫌なものだな~って思います。
たしかに女子から男子よりも、男子から女子にふざけ半分で、というイメージが強いです。
もし自分がLINEで告白されたとしたら、もちろん疑いますが「もしかしたら本当かも?」と思ってしまうかも。
「ウソ告」は1人だけでやることはほとんどないと思います。
団体というか仲間で集まって、罰ゲームのような感覚で流れ作業的に、みたいなことが多いと思います。
「ウソ告」をされた友人は、「ウソ告」をしてきた人を信頼できなくなっただけじゃなく、
その人の周りの人もみんなグルだと思ってしまって、人間不信になっていました。
そのあと、必死に謝られたので許してはいましたが、もう話すこともないみたいです。
お互いにとって何のためにもならないので、これ以上、流行ってほしくないです。
【5】「ウソ告」を華麗にスルーするために 〜対処法、こそっと教えます
【コミュニケーションの3要素】
ある相手とのコミュニケーションにおいて、好意や反感と捉えられる態度や感情と矛盾したメッセージ(言語)が発せられたとき、人はそのメッセージの意味内容をどのように受け取るのでしょうか。
誰かとコミュニケーションをする際に、時として相手が話しているメッセージ(言語)と相手の行動(口調や表情など)に矛盾を感じるような場合があります。心理学者のアルバート・メラビアンは、人がコミュニケーションにおいて相手から発せられる様々な情報のうち何を重要視してメッセージの信憑性や好意や反感といった感情を判断しているのか、ということを実験した研究者です。
この実験によって、相手の言動が矛盾するコミュニケーションにおいて、向けられたメッセージや好意もしくは反感の信ぴょう性を判重する上で重要視される情報の割合は、相手から発せられたメッセージの内容など言語情報(Verbal)が7%、口調や話す速度、抑揚や大きさといった聴覚情報(Vocal)が38%、表情や態度、しぐさ、目線といった視覚情報(Visual)が55%という法則があることがわかりました。すなわち、メッセージの内容それ自体(言語情報:7%)よりも、それを取り巻く非言語情報(聴覚情報:38%+視覚情報:55%=93%)が相手の感情(好意や反感)やメッセージの信ぴょう性に及ぼす影響の大部分を占めているのです。(脚注3)
考えてみれば、何か相手に嫌な思いをさせてしまった時に、その相手から「大丈夫、怒ってないから」と冷淡(聴覚情報)かつ無表情(視覚情報)で言われたら、そのメッセージ(言語情報)通りの意味とは受け取れず、思わず「本当?まだ怒っているんでしょ?」と返したくなってしまいます。口調や表情という非言語が醸し出す雰囲気の影響は無視できません。その意味で、「言いたいことは顔に書いてある」という感覚は、言い得て妙なのかも知れません。
すなわち、心理学的知見からすればコミュニケーションにおいては「何を伝えるか」ということ以上に、その言葉が意味内容通りに相手へ真摯に届けるために「どう伝えるか」が重要になります。LINEを介した文字(テキスト)での告白は信憑性に欠けるわけです。そのため、リアルでも知っている友人であるなら(脚注4)、相手からの告白のメッセージだけでなく、口調や表情も含めてその言葉吟味(受け止める)ためにも直接対面することが大切です。
しかしながら、物心ついた時からスマホがある中高生にとっては、最初に接する遠隔でのコミュニケーション・ツールが電話やメールや手紙ではなくLINE(SNS)という可能性も充分に考えられます。そのため、LINE経由の告白に信憑性を感じてしまう心理も理解できます。複数人いる仲間内でのコミュニケーションにおいては通話(言語情報+聴覚情報)よりも短文のテキスト(言語情報)を優先的に利用しているという傾向も、テキストメッセージ(言語情報)を額面通りに信用してしまう一因になっているとも考えられます。
その点を踏まえたとしても、やはりLINE経由で「告白」する際にはせめてテキスト(文字)ではなく通話にするべきです。通話であれば、相手の口調や物音(聴覚情報)で部屋なのか周囲に誰かがいるかなど気配を感じることができます。また、事例①のように手紙を介した場合は、便箋の選び方や筆跡(視覚情報)などから丁寧(文字の上手い下手ではなく)に気持ちが込められているかを判別することもできるからです。
【6】まとめとして
本稿では主に中学生の間で流行している「ウソ告」という現象について、その実態、影響、対処法について考察しました。
高校生では多数の生徒がこの現象を否定的かつ客観的に捉えており、実体験や様々な意見を語ってくれました。と同時に、『もし自分がLINEで告白されたとしたら、もちろん疑いますが「もしかしたら本当かも?」と思ってしまうかも。』と中学生に同調する意見(心理)もあることから、LINEを介したテキスト・コミュニケーションに対する中高生の感覚については、あらためて調査をする必要性があると感じました。
情報通信機器が日進月歩する時代ですが、人間の大切な心を伝える「告白」だけは、真摯に向き合う勇気を出してやり遂げたいものです。告白が成就してもしなくても、「あの日」「あの時」「あの場所」で勇気を出して成し遂げた青春を、大人になってからも良き思い出の1ページとして思い出せるように。
<脚注>
注1)「真実か挑戦か」(「Truth or Dare」)は「王様ゲーム」と類似したゲームであり、中高生の間で話題となった映画『君の膵臓を食べたい』の劇中でも行われています。ゲームの敗者は勝者からの質問に「真実」で答えなければなりません。
質問例としては、「好きな人の名前は?」「クラスの中で付き合っても良いと思える人は?」「付き合っている人はいる?」「過去に何人と付き合ったことがある?」「Twitterのアカウントをいくつ持っている?」など。答えられない、答えたくない場合は「挑戦」に切り替わり、勝者から出されたお題を実行しなければならず、「ウソ告」は使い勝手の良い難易度のお題としてみなされているそうです。
注2)昔から『元祖どっきりカメラ!』などバラエティ番組でおなじみの名物企画。
注3)メラビアンは、この法則はあくまでも好意・反感などの態度や感情のコミュニケーションを扱う実験から生み出されたものであり、話者が好意や反感について語っていないときは、これらの等式はあてはまらないと言明しています。 http://www.kaaj.com/psych/smorder.html
注4)ネットで知り合った人と会うことで事件に巻き込まれるケースが多発しています。たとえ信頼できる友人からの紹介だとしても、その相手とはネットでしかやり取りをしていない場合、なりすましや出会い系である可能性もあります。最近では悲惨な殺人事件までもが起こってしまいました。直接会うのは危険ですので絶対にやめましょう。
<参考文献>
Mehrabian, A. (1971). Silent messages. Wadsworth, Belmont, California.(邦訳書:西田司ほか訳『非言語コミュニケーション』聖文社, 1986)