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顔が見えないコミュニケーション【大阪大学・社会心理学研究室シリーズ(6)】

6回連続でお送りしてきた「大阪大学・社会心理学研究室シリーズ」の最終回をお送りします。最後は第一回でも執筆いただきました、綿村英一郎准教授に執筆いただきました。

 

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6回連続でお送りしてきた「大阪大学・社会心理学研究室シリーズ」では、いじめ・炎上・詐欺といったネット上の諸問題、認知バイアスの危険性などを取り上げてきました。いかがでしたか?不自然なことをする実験、小難しい図表、抽象的な議論が随所に出てきたので、リアリティーに欠ける印象をもたれたかもしれません。実証的な心理学は、ヒトのごく一般的な性質について考える学問なので、そう言われればそのとおりです。

しかし、そうした遠視的なアプローチでヒトを俯瞰する中にも発見があり、その面白さに少しでも関心をもっていただければと思います。さて、前置きが長くなりました。最終回となる今回はSNSやメールなど、互いの顔が見えないコミュニケーションをとりあげ、心理学的に考察してみたいと思います。

 

互いの顔が見えないコミュニケーションについて心理学的に考察してみます

 

 

ミラー・ニューロン

1996年、神経生理学者のリッツォラッティらは、サルの脳に興味深い活動を示す細胞があることを発見しました。
(参考:http://www.scholarpedia.org/article/Mirror_neurons

 

サルが物を拾うときに活動する細胞が、ヒトが物を拾う様子を“見ている”ときにも活動していたのです。ヒトを含め高度な知能をもった霊長類には、他人の行動を観察しているとき、自分が同じ行動をしているときのような活動を示す神経細胞、ミラー・ニューロンがあると言われています(なお、“ミラー”というネーミングは、他人の行動を鏡に映したような、という意味に由来しています)。ではなぜ、ミラー・ニューロンなるものがあるのでしょうか?

 

非言語的コミュニケーション

急に話が変わりますが、SNSやメールといったネット・コミュニケーションについてよく言われるのが、非言語的コミュニケーション(Nonverbal Communicationがない、あるいは乏しいということです。非言語的コミュニケーションとは、言語を除く情報伝達手段のことで、表情、声のトーンや抑揚、視線やジャスチャー、発言の間、お互いの物理的距離などが例として挙げられます。これらは、特に人格や感情といった「本心」に関わるような情報を提供したり、会話者同士の相互作用を促進したりするなどの機能があります。
(参考:Patterson, M. (2012). Nonverbal behavior: A functional perspective. Springer Science & Business Media.

 

ポイントは、非言語的コミュニケーションは、対人関係における親密性と深く関連しているということです。例えば、Rubin(1970)の研究では、仲のよいカップルほど視線を合わせる時間が長いことが示されています。(なお興味深いことに、ずっと円満に暮らしてきた熟年夫婦など、親密度がさらに高まると、言語的コミュニケーションが減る代わりに非言語的コミュニケーションが増えると言われています。いわゆる“阿吽(あうん)の呼吸”ですね。)
(参考:Rubin, Z. (1970). Measurement of romantic love. Journal of personality and social psychology, 16(2), 265.

 

また、同調傾向といって、互いが親密であるほど相槌のタイミングが一致したり、気がついたら二人とも腕組みをしていたりなど、同じコミュニケーションパターンを示すようになります。そういうわけで、非言語的コミュニケーションは、対人関係において親密性を高めるという役割を担っていると考えられているのです。

 

非言語コミュニケーションが親密性を高めると考えられています

 

ココロは推論される

ミラー・ニューロンの話に戻りましょう。なぜミラー・ニューロンがあるのか?その答えには諸説ありますが、有力な説の1つは、他人の本心を理解したり、共感したりするためというものです。つまり、ミラー・ニューロンは、他人の行動を観察し、頭の中でそれをなぞり、あたかも自分が行動しているかのようにはたらくことで、他人のココロの理解を可能にしているのです。また、その理解に基づき、共感を抱くことができるようにもなります。

私たちはケーブルでつながり合っているわけではありません。そのため、他人のココロを直接知ることはできません。他人から発される言葉、および非言語的コミュニケーションを手がかりとして、そのココロを“推察”しているにすぎません。推察するためにはそのプラットホームが必要です。ミラー・ニューロンは、プラットホームとなる神経基盤の一部として機能しているようです(余談ですが、ミラー・ニューロンが位置する脳部位に障害があると他人の表情を読めなくなる、という研究例があります)。

 

ココロを知ってこそ親密になれる

ネットがらみのトラブルや犯罪が報道されると、司会者やコメンテーターが「ネット・コミュニケーションは良くない」旨の発言をしていることがあります。なぜ、良くないのでしょうか。いじめを招くから?詐欺の手段に使われてしまうから?炎上が起こるから?そう考えられなくもありませんが、こうしたトラブルや犯罪はネット・コミュニケーションが生む問題の一形態ではあっても、本質ではありません。なぜ良くないのか一言でいえば、他人のココロをよく知ることができないからです。

 

先ほど、「なぜミラー・ニューロンがあるのか?」という問題について、ココロの理解や共感といった機能の側面から答えましたが、その存在意義については踏み込んでいませんでしたね。ミラー・ニューロンがある理由、それは言葉では事足りないからだと考えられます。言葉だけでは、他人の人格や感情といった本心に関わる肝心な部分について十分理解できないうえ、嘘によってだまされるリスクも回避できません。言葉だけではなく、言葉以外の情報も手がかりとして他人のココロを推察する必要がヒトの進化の歴史とともにあったのです。そう考えると、ミラー・ニューロンという神経細胞がある理由についても頷けます。まとめると、私たちは

 

①非言語的コミュニケーションを含めての推察によって

②他人のココロをよく知り

③親密性を高めていますが

 

SNSやメールは非言語的コミュニケーションがない(あるいは乏しい)ので、②以降のステップに進もうとすると支障が生じやすいということになります。

 

顔が見えないコミュニケーション・ツールとの付き合い方

 

SNSの向こう側にいるあなたは、今どんな気持ち?

 

「インスタ映えするスイーツ♥」などと言ってSNSに興じる傍ら、その実、孤独に悩んでいる人たちは少なくないように思います。より多くの他人と関わりあえるよう設計されたはずのコミュニケーション・ツールが孤独感を解消しない、あるいはかえって孤独感を深め、ひいてはトラブルや犯罪の種にもなるという皮肉な事態に対し、私たちは冷静に思考し、向き合う必要があります。

もし、あなたがメッセージを添えてスイーツの写真を送ったとしても、相手に伝わるのは「あなたが美味しいスイーツを食べた」というそのままの情報+αです。あなたがどれくらい幸せな気持ちでそれをほおばり、どんなふうに声をかけてほしいのかなど、あなたが本当にシェアしたいあなたの本心はあまり伝わってはいないでしょう。結果として、相手から得られるリアクションはあなたの期待値を下回るはずです。伝えようとした本心が知ってもらえなければ、落胆や反発を感じるかもしれません。

 

原理主義的なコミュニケーション論に回帰しますが、やはり、互いに顔が見えるコミュニケーションに勝るものはありません。互いの顔が見えないコミュニケーションは、それ相応のココロしか伝わりませんし、こちらも相応にしか理解できていないでしょう。さらに、親密になれると期待しすぎてはいけないということもあらためて認識する必要があります。

 

 

 

綿村英一郎

筆者プロフィール

大阪大学大学院人間科学研究科 准教授
東京大学文学部卒。2012年、東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻(心理学)修了。博士(心理学)。大学院修了後、慶應義塾大学で2年間ポストドクトラル・フェローとして「刑事裁判の量刑判断」について研究。2014年4月~2017年3月まで東京大学大学院・社会心理学講座の助教を経て、2017年4月より現職。専門は、社会心理学、法心理学、認知心理学。

 

シリーズ担当:青木

 


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