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SNS経由「入学前フレンド文化」の拡大とリスク

新年度になって間もなく2週間。新入生にとっては新たな学校・大学での生活がスタートしました。多くの学校では先週、入学式が挙行されたわけですが、新入生同士の「交流」は入学前からすでに始まっていました。

筆者はこの現象を、SNSが生み出した「入学前フレンド文化」と呼んでいます。mixiが運営を開始した2004年頃、春から大学生になる若者の間で生まれた現象で、10年余りの歴史があります。これが近年のスマホの普及と共に、多くの中学生、高校生の間でもSNSを利用した同じ現象が見られます。彼らにとって学校は社会と同義なのか、SNSをSocialならぬSchool Networking Serviceという認識で使っているようです。

 

SNS経由の「入学前フレンド文化」は、中学生、高校生ともに、受験を終えて「ツイ禁」(受験で忙しい時期に、Twitterの利用を自粛すること)を解除する時期から始まります。受験中はプロフィールに受験校を「仮の進学先」として追記するケースが見られ、前期と後期の合格発表後に進路が「確定」すると、関連するツイート件数に拍車がかかります。

 

Twitterの検索機能を使って分析してみると、「入学前フレンド文化」は多くの場合、以下の3段階を経て構築されているようです。

 

 

<STEP1>まずは、受験後にプロフィールを変更

例) 「○○中 → next▲▲校(仮)
同じ志望校の人フォローよろしくね!」

春から高校フォローその1

春から高校フォローその1

 

<STEP2>続いて、合格発表後の相互フォロー合戦ツイート

例) 「春から▲▲校です!
▲▲校の人RTとフォローお願いします!!
#拡散希望 #春から▲▲校」

春から高校フォローその2

春から高校フォローその2

 

LINE ID交換用のQRコードを検索した例(読取不可に加工済)

LINE ID交換用のQRコードを検索した例(読取不可に加工済)

<STEP3>そして、Twitter経由でLINEグループの申請・加入へ

例) 「▲▲校のLINEグルです→(URLやQRコードの画像)
#拡散希望 #春から▲▲校」

なかには、

「▲▲校のLINEグルに入ったけど…自分から追加する勇気ないです…」

というように、なぜか「心境」を公開ツイートしてしまう中学生もいました。

 

Twitterでは「#春から」とキーワード検索をすると、湯水のように関連ツイートがヒットします。4月4日11:30に、この原稿を書きながら検索してみたところ、この時期でも15分間で150件〜200件の新規ツイートが表示されました。

 

また、Facebookに草稿をpostしたところ、私立小学校の教諭から「私立中学入学でも同様のケースがありますよ」とのコメントが来ました。

 

さて、「入学前フレンド文化」のメリットですが、初登校(入学式)後すぐにSNS上での事前のやり取りをもとに「初対面のような気がしない対面式」ができるので、緊張感やコミュ障(コミュニケーション障害の略である。 実際に定義される障害としてのコミュニケーション障害とは大きく異なり、他人との他愛もない雑談が非常に苦痛であったり、とても苦手な人のことを指して言われる。引用:ニコニコ大百科
を緩和することができます。また、入学前から上級生ともSNS上でつながり、教師(部活動の顧問など)や学校の様子(授業や行事)についてのリアルな情報を仕入れることもできます。

 

他方でデメリットですが、これは枚挙にいとまがありません。例えば、「入学前フレンド文化」を経た大半の生徒は、所属クラスや部活動が決定するたびにプロフィールを更新することでしょう。そこに制服姿のまま友達と撮影したプリクラや自撮り画像などの「近影」が加われば、個人情報の公開データベースが完成します!これで誰でも当人を特定することができ、その気になれば会いに行くことさえできます。

 

それから、SNSを利用していない生徒との間に生じるデジタル・ディバイドの問題が挙げられます。筆者が特に懸念しているケースは、スマホを所有していない生徒、保護者との約束によってSNSを利用していない生徒が、次第に「不安感」や「焦燥感」を覚えてしまうことです。

 

実際にSNSを利用したことがない中学生、高校生にヒヤリングをしてみたところ、

 

「Twitterで流行っている画像や動画の話に付いていけない」

「クラスや部活のみんながLINEをやっていて、自分だけ取り残されている気がする」

「クラスのLINEグループの中でイジられたりバカにされたりしている気がする」

 

といった意見がきかれました。

 

筆者は、このような生徒の心情をSNSに対する「初動不安」と呼んでおり、SNSトラブルを誘発する最初のステージだと認識しています。いずれにしても、「不安感」や「焦燥感」に負けて不用意(不必要)にSNSを「発信者」として始めてしまえば、二重のトラブルに巻き込まれるリスクが増加します。

 

ひとつは、仲間内でのSNS上のやり取り(デジタル・コミュニケーション)に付随するトラブルです。SNSを利用していないことに起因する「不安感」や「焦燥感」だったものが、いつの間にかSNS上でのやり取りに起因する「不安感」や「焦燥感」へと変容してしまうのです。この変容が、スマホの長時間利用、SNS中心の生活リズム、社会不安障害といった弊害のトリガーになると考えられます。

 

もうひとつは、SNSに関する知識不足や認識の甘さから、SNSを経由して表1のようなネット上の様々なトラブルに巻き込まれるリスクです。ネット上で「個人を特定」することを皮切りに「ユスリ」をかけようと企てている者達からすれば、SNS経由の「入学前フレンド文化」は「カモがネギを背負ってやって来る状態」そのものなのです。

 

希望を抱いて入学した矢先に、ネットのトラブルが原因で学校に行けなくなってしまうという最悪の事態にならないよう、SNSで日常を垂れ流すことのリスクについて、あらためて考えてほしいと願っています。

 

ネット上のリスク分類

 

 

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