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「独自ネットパトロール」柏市少年補導センターの取組み【取組み紹介シリーズ[2]】

独自の手法で「ネットパトロール」を遂行する千葉県柏市少年補導センター、所長の宮武孝之さんにインタビューをさせていただきました。
宮武さんは平成元年に中学校教員となり、少年補導センターでの指導主事、中学校教頭を経て、再び少年補導センターへ。現在は所長を務めておられます。今年で3年目となります。

本記事では、インタビューの内容をまとめ、独自の手法で展開する「ネットパトロール」に焦点を当ててご紹介いたします。

 

1.活動「ネットパトロール」を始めたきっかけ

2008年に、柏市で起きた中学3年男子生徒(14)殺人未遂事件が直接的なきっかけとなっています。
被害者少年は無職の少年に金属バットで頭を殴られ意識不明。発端は被害者生徒がネット上の自己紹介プロフィールサイト(プロフ)に掲載した写真。暴走族の特攻服を着たその写真がたまたま加害者の一人(暴走族メンバー)の目に触れました。「奴がどうして(これを)着ているのか」と掲示板に書き込み、仲間に本人の身元特定を指示。身元が分かると連れ出し、合計7人で囲み金属バットで殴る等を行いました。全員が暴力そのものに加担したわけではありませんでしたが止める者はいなかったそうです。
この事件は「ネットに載せた一枚の写真」が原因で、そこから追跡が始まり本人特定と殺人未遂までに至りました。

この事件をきっかけに、宮武さんは個人的に「ネットパトロール」をはじめました。「ネット型非行」と呼ばれるインターネットを中心とした非行の形態が問題とされるようになり、この個人的な取り組みは、補導センターの取組みとして行われるようになりました。

 

2.非行のもうひとつの形「ネット型非行」

深夜、外を出歩くなどの言わば「目に見える非行」とは異なる、「ネット型非行」が増えていると言います。
ネット環境の急速な発展とともに子どもを取り巻く環境は大きく変わり、表に出にくい「ネット型非行」は放置されやすく、大きな事件として露呈するまで気づかれない場合も少なくありません。誰かへ送った写真や動画、メッセージや書き込みは「二度と消すことが出来ない」という、使う側の認識が甘い、またはそれを知らないでいます。知らないままスマホを持ち始め、犯罪や被害に巻き込まれることになります。
「LINE」、「SNS」等で人間関係が広がり、自分の意思に関係なくネット上の不適切な有害情報が共有されてきます。つまり、それらとの接触機会が意図せず向こうからやってきてしまうとも言えます。そして「いじめ」、「性」、「薬物」等の問題へ発展していくこともあります。また、児童ポルノや不正アクセス禁止などの新しい形の非行も起きています。オンラインゲーム依存などのネット依存、スマホ依存もこれに含むものとしています。
非行傾向が見られなかったいわゆる普通の「少年」、「少女」が事件に巻き込まれ、能動的に参加してしまうことがあるのも特徴の1つです。

 

3.ネットパトロールの手法

柏市少年補導センターでは、民間業者に委託せず、独自の「ネットパトロール」をセンター職員の手で実施しています。この手法についてご説明いただきました。

 

(1) 具体的にどのように「ネットパトロール」をしていますか?

ネット上で「具体的な学校名」「危ないキーワード(いじめをイメージさせるようなもの)」で引っ掛かるものがないかを、1つずつサイトを閲覧しながらチェックしています。

 

主に検索するサイトは以下のような場所

・したらば掲示板:無料の掲示板サイト

・学校BBS:学校別掲示板サイト

・オリラン:利用者がランキングやアンケートを登録し他ユーザーが投票するコミュニティサイト

・Twitter:短い一言のつぶやきや画像を公開で投稿するサイト

 

(2) 柏市の生徒かどうかは、どのように判別していますか?

パトロールの記録簿

パトロールの記録簿

サイトやサービスのアカウントが分かると、IDやプロフィール等から誕生日が分かる場合が多いです。またその同じIDの過去の投稿を読みこむことで「学校名」や「部活」などまで知り得ます。教育委員会として、柏市生徒の情報はある程度保持しています。それらの情報と併せて判断することで、最終的には100%に近い形で個人を特定できます。結果は独自の「サイバーパトロール記録簿」(以下、記録簿)に記載し保管しています。

 

(3) 問題となる記載を発見した場合はどうしていますか?

まず、こちらも記録簿に記載します。記録簿への記載と同時にステータスを3つのレベルに分け、対応を行います。レベルによる対応は以下の通りになります。

 

【レベル1】不適切な内容ではないもの。学校名、アカウントをこちらで把握し同アカウントを継続して見守ります。

 

【レベル2】個人情報についての記載や、その他不適切な書き込み、誹謗中傷、不適切画像が見られた場合はここに分類します。その後、学校と教育委員会の指導課へ通報まで行います。学校では指導を行い、補導センターから指導の助言とネット上の書き込みの削除依頼などを行います。

 

【レベル3】危機レベルの高い状態はここに属します。具体的には違法行為や自殺企図、暴力や恐喝につながるような内容の場合です。学校と指導課へ通報、学校から警察へ通報、警察も関わって対応することになります。

 

(4)パトロールの効果

何よりも現状把握が具体的にできることは大きいと考えています。

 

表1 パトロールで発見した情報のレベル別件数

2014(3/12時点) 2015(9/17時点)
レベル1 1375 1441
レベル2 26 16
レベル3 2 2

 

表1は、発見した情報をレベル別にカウントしたものです。2015年はレベル1において、9月時点で2014年度を超えているような状態です。こうした実態も、パトロールを実施することで、初めて把握でき、実態を把握することで初めて「いじめ」や「犯罪」などの早期発見・解消・抑止へつなげられるものと考えています。

 

4.広報啓発活動について

少年補導センターでは、ネットパトロールの活動と並行して広報啓発活動にも取り組んでいます。子どもたちや保護者に向けた「スマートフォン安全教室」、補導委員や相談員への「ネット依存症についての勉強会」、学校警察連絡協議会との連携で行う「生活実態調査」等です。講演会は平成26年度で合計67回、平成27年度9月15日時点で合計58回実施しています。パトロールの手法や成果については、講演会を通じて子どもたちにも伝えています。伝えることにより、子どもたちは見られていることを自覚します。これはネット型非行の抑止に有効であると考えています。

講演の中でも「生徒へ向けた安全教室」は最も効果が高いと感じています。中学からスマホを持ち始める子どもは多く、行うべきタイミングは中学校入学式の前がベストと考えています。2月頃から集中的に実施しています。

また、柏市では、教育研究所のITアドバイザーが、小6、中2の全クラスで情報モラルの授業を行っています。

 

5.今後について

柏市少年補導センター宮武所長

柏市少年補導センター宮武所長

具体的に実態把握ができ、ダイレクトに問題にアプローチ可能な「ネットパトロール」は大変効果的です。今後も継続していきたいと考えています。また、分かってきたことのひとつとして、親子関係が不安定な子どもほど、被害者・加害者になりやすいということです。原因の根本がそこにあるとしたなら、今後はその点も何かしら改善できるような取り組みが行えればよいと考えています。

 

家族内でコミュニケーションを常にとって欲しいのは当然ですが、スマホに関しては「使い方」、「ルール」を家庭内でも作り、見守ることを促しています。ただ「聞いてほしいご家庭」ほど、講演会に「来られない」、「来ていただけない」場合も多いように感じています。その点も課題として認識しています。

また、このネットパトロールでも把握できない点は、SNSやLINE等のアプリのクローズドなやりとりです。この点において、エースチャイルド社のスマホアプリ「Filii(フィリー)」に大変興味を持っています。ネット上の危険から子どもを守るための「仕組み」、「仕掛け」として効果的だと捉えています。例えば中学入学時点の「最初にスマホを持つタイミング」で「Filii(フィリー)」インストールの義務付けなどが出来れば、そういった部分でも対策が可能だろうと考えています。(という大変ありがたいお言葉をいただきました!)

 

6.まとめ

「ネット非行」、「ネット犯罪」を全くのゼロにすることは大変難しいです。知識も社会経験もまだ浅い児童・生徒がスマホを手にし、「ネットで世界とつながる」ことは良い部分もあります。一方で、リスクとも紙一重です。「正しい選択判断」、「リスク回避」のためには、年齢に関係なく「備え」や「自分自身の意識」は不可欠です。その上で、見守る大人たちや関わり取り組んでいる人たちも連携し、1つでも2つでも仕組み化を進め、冒頭に書いたような事件の被害者を減らしていかなくてはならないでしょう。

柏市少年補導センターの取組みは、デジタルなネットの世界に対し、「柏市生徒のアカウントを把握し、1つ1つ目で見ていく」という、ある種アナログで地道な力技ながら、子どもたちの使うサービスやサイトの特徴をしっかり把握して対応することで、着実な効果を上げています

子どもたちの利用するサービスやサイト、その使い方は日々変化します。最後の質問として、「いたちごっこにならないか?」という問いを投げかけました。その回答は、「いたちごっこになるからやらないという選択肢はない。効果があるなら、ある程度の手間を以ってしても対策を講じ続けるのみ。」という力強い回答をいただきました。この質問は、弊社のFiliiに向けてもよく問いかけられる質問です。この回答には大変共感を覚えました。

 

今後もこういった取り組みを続けていって欲しいと思うとともに、他の自治体でも是非取り入れてほしい取り組み事例と思います。

 

 

 

 

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