「インターネット利用アドバイザー」ってどんなことをするの? 一般財団法人インターネット協会の取り組み シリーズ(2)
インターネット利用アドバイザー(以下、アドバイザー)について紹介するシリーズの第2回をお送りします。前回はアドバイザーとは何か、どのような試験があるか、といったことについて説明いただきました。
今回は、アドバイザーが情報モラル啓発講演を依頼された際の準備や、当日の注意点などについて説明いただきます。執筆していただいたのは、前回に引き続き、インターネット協会の大久保貴世氏です。
青木も情報モラル啓発講演を実施することが多いので、とても参考になりました。情報モラル啓発講演に限らず、講演を行う人、講演を運営する方にも参考になる内容となっています。ぜひご覧ください。
———-
第1回に続いて第2回を担当します。アドバイザーにはどんなことが求められるのでしょうか。私、大久保貴世の最近の講演例(2018年1月実施)をもとにお話します。いろいろな例を話すと全体像がつかめないので、1つの講演だけ紹介いたします。
事前にしっかり確認をします
通常は3か月程前から講演依頼があるのですが、今回は1年以上前から依頼がありました。
のんびりしていると、あっという間に「あらー、あと1週間しかないわ」と焦ります。ある大学で年1回の講座をはじめて5年目になっていて、勝手を知っているのに、逆にその余裕がいけませんでした。
当日は講演開始30分前に学校に到着。
余裕を持っていつも通り講演場所である教室で準備をしようとしたのですが、10分前にならないと教室に入れないとのこと。しかも、講演10分前にようやく入ってみると、いつも依頼していて準備されているはずの聴講者への配布用講演資料がありません。しかし学生はどんどん教室に入ってきます。
開始5分前に、担当の先生が来て「あれ、資料はないの?」と慌てるやいなや職員室まで配布資料を受け取りに走っていきました。私は、その間にビデオ上映とパワーポイント動作の確認を行い、自己紹介で待ち時間の穴埋めをしました(冷や汗かいていますが、顔は笑顔です)。
そして、10分後に資料が届いて、これで準備万全です。結局、予定より5分遅れで講演スタート。
2日前に学校職員へ電話した時に「資料を印刷して準備しておきますね」と言われて安心しきっていましたが、具体的に確認するべきだったので反省です。「私が職員室で印刷物を受け取って、私が教室に運ぶということだったのですね。私の確認不足でした」と伝えました。
講演が慣例化してくると、「お願いしたつもり」で勘違いすることがありますから、アドバイザーは、しっかり事前確認する必要があります。
講演実施時間は厳守。長く話すのはダメです
前回は遅刻の学生が20人ほどいて、冒頭の重要な話を聞いていない学生もいました。今回、遅刻者を想定して、冒頭と同じ話を後半にも話す予定にしていました。
しかし、5分遅れが逆に幸いとなり、冒頭の話を全員に聞いてもらうことができました。そのため、後半に話す内容が不要になったために、5分の遅れを取り戻せました。
予定時間80分を75分で終了。終了時間は予定通りです。
今回は自分の都合で5分短縮しましたが、主催者の都合により予定より短縮してくださいと言われることもあります。話したいことがあっても時間を守らないと関係者に迷惑がかかります。講演後に他の授業が予定されている場合もあります。アドバイザーは、時間厳守に努めます。
失敗を教訓にします
講演後、質問が2つありました。
私の質問方法は、「皆さんの前での質問は恥ずかしいと思いますから、この後に個別にお越しください」とするパターンが多いです。
1人目は20代男性から。「自分の友達が、LINEのタイムラインで自傷行為をしていることを知った。私に出来ることはあるか」と。
私からのお返事は、「彼は、あなたがタイムラインを見ているのを知っているはずですね。誰かに助けてほしいから、タイムラインで書いているのではないでしょうか。放っておいて何かあったら大変なことになるかもしれません。専門の相談機関があるので、まずはあなたが相談してみてください。あの時にこうしていればよかったと後悔するのはイヤですよね。こうして質問してくれて嬉しかったです」とお返事しました。
私は、ちょうど臨床心理士から研修を受けた後でもあり、そのアドバイスが役立ちました。アドバイザーは、心理学などの勉強もするように努めます。
2人目は、定年退職後に大学生になった60代男性から感想です。「私はLINEもメルカリも知らないので、今日の講演内容は新しく知ることばかりでした。」と。
私が授業の冒頭で、「Twitterやっている人」「Facebookやっている人」と挙手させて、その後に「LINEは皆さん使っていますね」と挙手させませんでした。ということは、その男性への配慮が欠けていたことになります。あーあ、使い方は人それぞれなのに申し訳ありません。アドバイザーは、失敗したら教訓にします。
講演感想で次に向けます
悲しいことに、私はトラブル事例や事件を主に話すので、素敵なインターネット利用の話をする部分がとっても少なくなっています。
なので、講演終了後は、「わー」という歓声はなく、どよーんとした感じで終わります。
ですが、数日後に講演を聞いた方々から感想が送られてきて、話した内容の重要性をしっかり理解してくれていたようで安堵しました。いくつか紹介します。
「Facebook等のSNSで、他の人の写真などを掲載する際には、事前に許可を得ることや、さらに信頼感を得るために『掲載許可をいただいています』等の記載をすることが重要だと強く認識した。もし、許可を得ないで著作物を掲載した場合、当事者や第三者から『許可を得たのか』といった指摘を受ける可能性もあると知ったからです。」
「目が覚めました。SNSは慣れと共に情報を公開することに対して抵抗がなくなってきています。」
「思い当たるふしばかりで少し耳の痛い話でした。実際にSNSでトラブルが起きて友達と大きな問題に発展してしまったこともあります。Instagramのストーリーがとても流行していて、普段のありのままを載せる使い方が多いので、プライバシーに関するトラブルが起こりやすいと思います。」
「プライバシーは他人に知られたくないことであり、人によって違うのを今日はじめて理解できました。相手を思いやる気持ちが一番大切だと考えました。」
(補足:私のFacebook、および、公開ブログなどへの掲載許可も得ています)
否定的なご指摘を受けることもありますが、有り難く受け止めて、次の講演に向けていきます。こんな風にして、アドバイザーの皆さまは繰り返し活動しています。
次回(第3回)は、他のアドバイザーの方のお話しを予定しています。
大久保貴世(おおくぼたかよ)
一般財団法人インターネット協会 主幹研究員。
インターネットのルール&マナーの普及啓発、主要SNSやフィルタリングのマニュアル「その時の場面集」の作成公開、東京都が開設した 「東京こどもネット・ケータイヘルプデスク」での相談対応 などに取り組んでいる。
相談事例から見えてくるトラブルの事前予防策や トラブル後の対処法を広く周知するため、保護者・青少年・教職員向けの 講演やテレビ、YouTubeなどに出演もしている。
委員実績:
警察庁「児童の安全・安心なインターネット利用に資する方策に関する研究会」
文部科学省「消費者教育推進委員会」
東京都墨田区教育員会「いじめ問題専門委員会」など。
シリーズ担当:青木