心理学観点から見た、ゲーム依存の症状や原因について
かつて「ゲーム脳」という言葉が流行った時代がありました。「ゲーム脳」には賛否両論あり,本当に悪いか?といわれると絶対悪とまでは言いきれないように思います。たとえば,ゲームを長く続けていることで視覚的な注意力や視空間の認知能力が向上し,それを司る脳領域が増大するという研究報告があります(Palaus et al., 2017)。
車の運転では他の車両や歩行者など,多くのターゲットに注意を向けなければなりませんが,この報告に基づくなら,ゲーム好きのドライバーはより安全に運転できるのかもしれませんし,受験生なら図形問題が得意!・・・ということもあるかもしれません。悪影響と強いて言うなら,「報酬系」と呼ばれる脳領域への影響でしょう。ゲームがもたらす「楽しさ」が快感(報酬)になることでゲームを繰り返し,この関係がより強固に結びつき,やめられなくなっていきます。このメカニズムはギャンブルなど他の依存症と同じで,心理学では「正の強化」や「連合学習」として知られています。
この記事では,最近のゲーム業界で大きくシェアを伸ばしているオンラインゲームを想定しつつ,ゲーム依存(gaming addiction)と呼ばれる病理学的行動について,その症状や原因について心理学観点からお話をします。ついでにオンラインゲーム依存の診断チェックリスト(※お試し版)も作ってみたのでお楽しみください。
1.ゲーム依存の症状
2018年6月,世界保健機関(WHO)は国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)を公表し,「ゲーム障害(Gaming disorder)」を国際疾病の1つに認定しました。ゲーム障害の症状としてコアなもの(core symptoms)とされるのは
①ゲームをしていないと悲しみ,不安,イライラ感を覚えるという離脱(withdrawal)
②行動の抑制がきかないこと(loss of control)
③ゲームをやりすぎていることで他者と繰り返し葛藤し,自分自身に対しても葛藤感があること(conflictuousness)
があります(Charlton & Danforth, 2007; King et al., 2013)。他にも,
④ゲーム時間がだんだん長くなってしまうという耐性(tolerance)
⑤異常に気分が高揚してしまう多幸感
⑥ゲームのことばかり考えてしまう認知的サリエンス(cognitive salience)
などもありますが,④以降は「周辺的症状(peripheral symptoms)」といわれ,ゲームをやりすぎているだけの人(excessive gamer)にもあてはまる健全(?)なレベルの症状です。
なお,やりすぎと依存は同じように聞こえますが,ゲーム依存者(addictive gamer)はゲームにすべてが振り回され,日常生活に支障をきたしてしまっているような病理学的レベルの人たちで,Griffith & Meredith(2009)も両者を区別して考えています。
2.ゲーム依存の要因
Paulusら(2018)は,過去25年(1991年1月~2016年8月の間)に行われたゲーム研究252件をレビューしました。その分析によると,子どもによるゲーム依存の要因は「外的要因」と「内的要因」に大別できます。
外的要因にもいくつか種類があり,その1つは親によるコントロール不足,親が無関心といった家庭内要因です。
2つ目は社会的要因です。オンラインゲームでは,気の合う他のプレーヤーとのコミュニケーションが孤独感や退屈感などの否定的感情を抑えたり,仲間意識を強めたりします。このこと自体は(現実社会でもよい関係が築けていれば)悪くないのですが,ゲームという居心地のよい空間に居続ける一方で依存も強まります。
3つ目にはゲームの性質が挙げられています。これはゲームの種類によって様々ですが,ことオンラインゲームについていえば,「きりのよいところ」がない,特典がもらえる,ゲーム内でのランキングがある,メンバーシップ料金が常にかかっている点などが挙げられています。
他方で,内的要因とは,その人自身の能力や気質・性格に由来する要因です。自己制御しつつ意思決定する能力はその1つです。ネガティブな気分を抑えることができない,目先の楽しみを求めてしまう,嫌いなものを避けようとする傾向,ひきこもりがちな性格なども依存につながりやすいと考えられています。
また,韓国人大学生を対象に行われた最近の研究では孤独感が注目されています(Lee et al., 2019)(以前から,韓国ではゲーム依存者の死亡例,事故例が報告されています(日本経済新聞,2011年11月16日版「『ゲーム中毒』対策を迫られた韓国ゲーム業界の試練」))。
ネット依存の要因に挙げられる自尊心・自己効力感の低さも関係があるようです(実際,両者を測る尺度は類似性が高いといわれていますが(e.g., 岡安, 2015),オンラインゲームへの依存は,コンテンツがゲームのみという点でコンテンツ多様なネット依存とは異なるとも考えられています(Kerr et al., 2019))。
ゲームをやるうちに「自分には力がある,好きなようにふるまえる」と思い込むようになることで自尊心・自己効力感が回復し,その快感情が依存を強めます。また,外的にも内的にも含まれていませんが,(年少ほど依存しやすいなど)年齢の違いははっきりと示されなかったものの,性別では男の子のほうが女の子よりも依存と診断されるケースが多いようです。
ただし,女性のほうがSNSのコミュニケーションに依存しやすいという特徴を考慮すると(稲垣ら,2017),コミュニケーション的な要素が多いオンラインRPGの場合は,女の子でも依存しやすいとの可能性が考えられます。
3.オンラインゲーム依存の診断チェックリスト
オンラインゲームにどれほど依存しているかを診断するためのお試し版チェックリストを作ってみました。リストの構成は,Demetrovicsら(2012)が開発したProblematic Online Gaming Questionnaire(POGQ),Shuら(2019)のInternet Gaming Disorder-20 Test,ICD-11の基準などの最大公約数的な項目をピックアップし,筆者の直感で「これはあったほうがいいかも」くらいに考えたオリジナル項目もいくつか加えました。
ただし,(誤解があっては困りますので)あらかじめおことわりしておきますが,筆者自身は臨床の専門ではありませんので,このチェックリストは本当にただのお試し版です。臨床試験などの正式な手続きをふまえて作成されたものではないので正確な診断には使えません。お楽しみ程度に使っていただければと思います。小学校高学年くらいなら自己診断できるよう,平易な表現に心がけました。
===
次のAからTまでの文で,あてはまるものにチェックしてみよう。
□A.年がら年中ゲームのことばかり考えている
□B.ゲームの時間を減らそうとしても失敗する
□C.一緒にプレイする仲間たちにもっとほめられたい
□D.ゲームのことで家族とケンカすることがある
□E.好きな時にゲームができなくてイライラすることがある
□F.ゲームのせいでやるべきことをやり忘れることが多い
□G.ゲームをしていて,「もうこんな時間だ!」と驚くことがある
□H.「ゲームは何時まで」と決めても,その時間に終えられない
□I.空いた時間に何もしないでいることができない
□J.ゲームのせいで人生がくるっているように思う
□K.ゲームが終わったらすぐトイレにかけこむ
□L.ゲームをしていないと不安な気持ちになる
□M.「ゲームのしすぎだ」と文句を言われることが多い
□N.ゲーム以外に夢中になっていることがない
□O.他のプレーヤーたちに先をこされるのが嫌だ
□P.ゲームに夢中になりすぎてごはんを食べ忘れることがある
□Q.「ここで終わり」と思うのに,仲間がいるからやめられない
□R.ゲームをする時間が足りない
□S.誰かと外出するより誰かと一緒にゲームをする方が楽しい
□T.楽しいわけではないのにゲームをしてしまう
===
全部で20項目ありますが,チェックした数が高ければ依存症の可能性が高いことになると思われます。やりすぎ(excessive gamer)とおぼしき私の知り合い2人(♂41,♂12)に試してもらったところ6と11でしたので,根拠はありませんが13以上くらいが依存症の目安ではないかと思います。
受験生ではない学生など余暇の多い人はやや多めに,15くらいが目安でしょう。また,「1日8~10時間以上かつ1週間で最低30時間以上を(大規模多人数同時参加型オンラインRPGのような)ゲームに費やしている(アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)「精神障害の診断と統計マニュアル」による。)」という客観的指標もありますので,そちらとあわせて考えてみてはいかがでしょうか。
最後に補足ですが,この類の研究は「ゲームは悪い」というスタンスで行われることが多いという点に注意が必要です。出版バイアス(publication bias)とも言いますが,「ゲームはやっぱり悪い」という主張を肯定するデータが集まりやすいので,鵜呑みにすることはできません。「ゲーム依存の子どもでも友人関係には問題がない」とか,「成績にいたってはむしろ優れている」というデータも公表されていないだけで実際はあるかもしれません。しかし,それでもやはり,ゲームはたくさんの時間を費やしがちになるので,「ほどほどに」を心がけたほうが無難かな・・・と個人的には思います。危ないと思ったら,お近くの病院やクリニックの専門医に早めに相談するようにしましょう。
筆者プロフィール
大阪大学大学院人間科学研究科 准教授
東京大学文学部卒。2012年、東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻(心理学)修了。博士(心理学)。大学院修了後、慶應義塾大学で2年間ポストドクトラル・フェローとして「刑事裁判の量刑判断」について研究。2014年4月~2017年3月まで東京大学大学院・社会心理学講座の助教を経て、2017年4月より現職。専門は、社会心理学、法心理学、認知心理学。