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つながる世界の歩き方

市野敬介の市野敬介的こころ(5) ~徒然に石見銀山を行動して同好の士とのつながりを考える~

今回お届けする記事はNPO法人企業教育研究会の市野敬介氏によるシリーズ第5弾です。随筆と落語が入り混じったような独特の文体で、リアル体験とバーチャル(デジタル)体験のバランスについて考えさせられる内容です。今回も独特の文章をお楽しみください。

 

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ご無沙汰しております。おかげさまで、この随筆も5回目となりました。この原稿を執筆しているのは、2019年の年の瀬です。あれだけ「平成最後の○○○○」という表現が人口にも、人工知能を経由した人口にも膾炙しまくっていたことに比して、「2010年代最後の○○○○」という表現が使われなさすぎる変節の解釈を考える時節でございます。

 

2010年代は『TEAM26』と銘打たれた千葉ロッテマリーンズのファン・サポーターにとっては、パ・リーグ3位に滑り込んだ勢いそのままに、クライマックス・シリーズ、日本シリーズ制覇へと駆け上がった「史上最大の下克上」で幕を開けた10年でありました。(2010年の千葉ロッテマリーンズと私の関連のお話は、また機会があれば別の原稿で。)

 

情報モラル・セキュリティに関してこの10年を振り返ると、スマートフォンが圧倒的に普及しました。同じものを好む者がSNSなどのインターネットを介して、さらにつながりやすくなったと思います。とはいえ、「パソコン通信」の時代から、離れた人がつながる手段として使われてきた仕組み自体はそんなに大きな変わりはありません。ただ、SNSの利用年齢も下がり、プラットフォームやアプリが増えました。

 

青少年が「ネット上でつながっているだけの人と直接会う」ことに関するハードルは、著しく下がっていることを感じます。2019年11月には、大阪市の小学6年生が行方不明になり、栃木県小山市で保護される事案がありました。こういう手合の話は常に大きく報じられますが、氷山の一角なのでしょう。

 

世界遺産・石見銀山に単騎で突入してみた

そんな2010年代最後の西方出張は、島根県大田市にうかがいました。先生方が集まる研修会で、情報モラル教材『みんなで考えよう、スマートフォン』の模擬授業をさせていただきました。この時期の日本海側は豪雪の可能性もあり、早めに現地入りするように旅程を立てます。

 

今回はおかげさまで、天候にも恵まれ、大田市にある世界遺産・石見銀山を、研修前に訪問させていただく時間がありました。JR大田市駅から路線バスで約30分、さらにレンタサイクルで山を登ること約20分、通年で公開されている唯一の坑道「龍源寺間歩」の近くに到着しました。隧道屋の倅としては、中に入らないわけにはいきません。

 

龍源寺間歩

 

すると、道端に1人のお年寄りの男性がたたずんでいます。旅先で《 ▷はなしかける はなしかけない》のコマンド選択が出る場合、私はたいてい「はなしかける」を選択するようにしています。「こんにちは」と話しかけたところ、そのお年寄りは坑道の中をボランティアでガイドをされている方でした。「後から来る2名の客を待っているので、10分ほど待つように」と指示されました。
この寒さの中、10分待つのか…。《 ▷ついていく ついていかない》のコマンド選択が出ましたが、ガイドさんについていくことにして、待つこととしました。引き続き「はなしかける」を選択すると、近くにある城跡が天然の要害になっている意味や、坑道を見学したあとの時間の過ごし方、そして、冬は観光がオフシーズンのため、訪れる人は希だということを教えてくれました。

 

やがて、観光地の社会実験で導入されている専用の電気自動車が到着し、老夫婦と合流。ガイドさん、老夫婦、そして私の4名のパーティが組まれ、龍源寺間歩の中に入っていきました。公開されている300m弱の坑道には、何カ所か、両脇に細く掘削された脇道のような場所があります。間口は狭いわりに、その奥が広い空間となっているところもあれば、斜め上の方向に掘削されたところも。実は、そういった側道こそが銀の鉱脈に沿って掘られた痕跡だったのです。ガイドの方に教えてもらわなければ、意味も分からず、ただの暗いトンネルとして、5分もしないうちに通り過ぎてしまいそうです。

 

そして、山陰と房総がつながった

石見銀山の最盛期は、戦国時代から江戸時代の前期です。当時の世界の銀の3分の1の産出量があったとのことで、銅よりも軽い量で同じ価値を持つとされた銀は、世界の交易に重要な役割を果たしました。
現在の島根県の人口は約70万人。当時、石見銀山周辺には約20万人が住んでいたということは、資源やエネルギーには人やお金が集まることが、いつの時代も変わらないことを示唆しています。

 

そんな話を聞きながら、冬眠前のコウモリも棲む暗いダンジョン「龍源寺間歩」を突き進むわけですが、同行していた老夫婦も私と同じく千葉県から来ていることがわかったことから、4名のパーティの結束がさらに高まります。ガイドさんからもどんどん情報が出てきます。

 

鉱山から鋳造、文化や法律の歴史まで、幅広い話を聞きながら、30分ほどで「龍源寺間歩」を抜け、再び1人になりました。「寺社仏閣と違って、産業遺構はそのありがたみがわかりにくい…」というガイドさんの言葉をかみしめつつ、研修会場の大田市役所に向かうバスが来るまでの時間は、歴史的な街並みが残る地区をそぞろ歩くことにしました。

 

世界遺産とはいえ、オフシーズンです。開いているお店も少なく、前後を見ても観光客がほとんどいない街並みは、タイムスリップ感が強いなぁ…、と考えているうちに、名産のお菓子『げたのは』を製造・販売している「有馬光栄堂」さんの軒先に流れつきました。

 

『げたのは』は、銀山の中で作業する人達が食べていたとされるお菓子です。素朴な甘さがあり、お煎餅とビスケットの中間のような不思議な食感です。購入後、お店のご家族と話し込んでいるうちに、私が千葉から来ていることと、千葉ロッテマリーンズのサポーター「TEAM26」の外套を纏っていることが話題になりました。

すると「この集落の郵便局長さんが、千葉ロッテマリーンズのファンなんですよ!」という、うれしい一言が。山陰に同志がいる!これは、ご挨拶しないわけにはいきません。

 

雨が降り始める中、駆け足で郵便局へ。合羽を着こんでズブ濡れになっている旅人が突如「局長さんにお話があるんです!」と窓口に訪ねてくるというのは、さぞかし異常事態だったことでしょう。

しかし、「有馬光栄堂さんにお話をうかがいました。同じ千葉ロッテマリーンズファンとしてご挨拶をさせてください」と事情を話すと、郵便局長さんは快く応じてくださいました。聞けば、川崎球場を本拠地にしていた時代からのファンとのことで、私よりも先輩です。わずかな時間ですが、石見の国にも、同じチームを愛してくれる人に出会うことができ、忘れられないひと時となりました。

 

つながった「遺産」の歩き方

石見銀山を後にして、大田市役所へ。さっそく、研修の冒頭で石見銀山に行ったことや「龍源寺間歩」に潜入したことを写真で紹介させていただきました。さらに、休憩時間に、こぼれ話として「『げたのは』を購入したら郵便局で千葉ロッテマリーンズのファンと出会う感動があったんですよ!」という話題も出しました。

 

すると、研修終了後に「私も親子で千葉ロッテマリーンズのファンなんですよ。出会えてよかったです!」と、うれしい出会いがさらにつながりました。千葉ロッテマリーンズについて話ができれば、短い時間であっても山陰と房総は一気につながるものです。

 

2010年代の最後に「応援しているものを共有できること」の大きなエネルギーを教えてくれたのは、ラグビーワールドカップ2019で強豪国を相手に押し負けることなく戦い抜き、ベスト8に進出したラグビー日本代表と、それを支えたみなさまでした。紅白の横縞のジャージは、その象徴となりました。

一方で、音楽も動画などのエンターテイメントも多様化して、「推し」の文化が浸透しました。「応援しているものがどんどん細分化された」10年間だったとも感じます。

 

古より「好きなものについて話すこと」は、人と人の理解を深めるきっかけになります。これだけインターネットが手軽に使えるようになった現代は、「好きなものについて話すこと」を、誰もが世界中に発信できます。
同好の士と、簡単につながることができるようになりました。しかし、そのつながりを利用して、邪にどうこうしてやろうとする不届き者ともつながってしまうわけです。心が通い、喜びを分かち合える交流を、どうやったら安全にできるのか。

 

岩石も、そのまま捨て置かれればただの岩ころ。しかし、それが鉱物とわかれば、そこから鉱脈が広がる可能性が見えます。知らない場所でも、初めて顔を合わせる人でも、好物がわかれば、人の心の脈がつながることもあるものだ…。
2010年代の最後の西方出張で訪れた世界遺産は、人と直接話をすることで得られる情報や、交流の連鎖の大切さを再認識させられる場所でした。

 

そして、2020年代最初の夏には、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。デジタルなものやハコモノだけでなく、日本を訪れた人達と直接交わす言葉や心の交流によっても、かけがえのないレガシーが数多く残ることを祈りつつ、本稿を締めさせていただきます。

 

 

執筆者プロフィール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市野敬介(いちのけいすけ)

NPO法人企業教育研究会 事務局員
千葉県青少年を取り巻く有害環境対策推進協議会 代表
地域教育推進ネットワーク東京都協議会 プログラムアドバイザー
一般社団法人次世代教育・産官学民連携機構(CIE) 社員
ストップイットジャパン株式会社 STOPitサポーター
全国教室ディベート連盟 副理事長 大会運営委員長
長岡造形大学 非常勤講師

NPO法人企業教育研究会は、学校・企業・大学を結び、誰もが教育に関わり、貢献することができる社会をめざして授業づくり、教材づくりを行っています。
https://ace-npo.org/

 

記事担当:青木

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