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「いじめ事前防止教育」への取組み【取組み紹介シリーズ[1]】

足立区立辰沼小学校の「いじめ事前防止教育」についての取り組みをご紹介いたします

2015年3月25日に開催された、法政大学教職課程センターシンポジウム「いじめ問題を考える2」より、足立区立辰沼小学校の具体的な取組み事例の内容をご紹介いたします。

これはいじめの「事前防止」に特化した取り組みです。「起きてからでは遅い」という基本概念のもとに考えられています。

東京都足立区辰沼小学校 校長 仲野繁(なかのしげる)

中学校及び高等学校の数学教師で数学の専門は微分幾何学。中学校では30年間生活指導を中心に教育活動を行う。5年前から小学校の校長として「いじめ防止教育」を実施。  

 

1.解決より防止

同校では2011年大津市で起きた中一自死事件をきっかけに「いじめ防止教育」を始めています。この事件に関しての児童の声は「解決より防止」というものでした。「いじめ防止教育」とは「命を守る教育」です。この教育は、避難訓練のような位置づけです。つまり、この教育が「人の命」が掛かった訓練であると言えます。いじめは、「不登校」や「引きこもり」、最悪「自死」が発生した後では手遅れになることもあります。「子どもが子どもに対して行う犯罪行為」のようなものと考えることもできます。

こういった共通認識を、先生や家庭の大人、そして子ども達自身もまず持つことが大切です。  

2.「防止者」を増やすための仕組み作り

いじめは子どもの心の部分の問題です。大人からは見えない、気付きにくいこともあります。そのため、大人側からの「気づき」を中心に事前対応に取り組んだ場合、いじめを明らかにすることには限界があると考えられます。「大人にやらされている対応」ではなく、子どもが能動的に、主体的に取り組める仕組みづくりも課題の1つでした。

その上で、人の行動を決める3つの要素「ルール」「モラル」「環境」の中で、特に大切なのは「環境」と考えました。いじめを構成する立場として、「被害者」「加害者」「加担者」「傍観者」「防止者」「無関係者」という6つの立場が作る環境を考えました。この中で、「防止者」を増やすことが「事前防止」に大いに役立つという考えです。仕組みでその数を増やせるか、具体的に踏み込んでいくことになります。

3.「T・K・R」(「辰沼キッズレスキュー隊」の略称)結成

(1)取り組みの主体は「大人」ではなく「子ども」

いじめを事前に防止する対策としてTKRという団体(生徒会のようなもの)を作りました。この隊員加入は自由参加、自由脱退です。やる気のある生徒が主体的に活動することは、大事な要素の1つと考えられます。

(2)活動内容

 a.子どもパトロール

隊員は休み時間に「いじめがないか」声を出しながら校内パトロールをしてまわります。「いじめ反対の気持ち」を具体的に見える形で表現し、さらに並行して正義が一人ではなく複数いることもしっかりと見せます。

 b.TKRブロードキャスティング

いじめ関連のニュースや校内の出来事を、昼の放送で流します。メディア機能を持つとは日頃のニュース等への関心が自然と高くなります。このことは「傍観者」を減らします。

(3)継続のための仕掛け

 a.ゆるキャラ「辰ピー」

TKRのシンボルとしてゆるキャラの「辰ピー」の制作も行っています。その着ぐるみも作り、時々校内に登場させます。「辰ピー」がいることで、低学年から高学年までがこの活動(いじめの事前防止活動)が、身近で親しみやすいものだと感じられ、理解することができます。企業で言うところの「理念」のようなものを体現していると考えます。

 b.フラッシュモブ

TKRのテーマ曲を学校で作っています。休み時間などに全校放送でその音楽を流すことがあります。これが流れるとフラッシュモブが起こります。この活動は楽しい活動だという感覚をみんなで持つことができ、取り組みを継続化することにも寄与します。

※フラッシュモブとは(英:flash mob)

インターネット上や口コミで呼びかけた不特定多数の人が申し合せて雑踏の中で通りすがりを装って公共の場に集まり突如ダンスなどを行い周囲の関心を引くことで目的を達成しその後すぐに解散する行為。(wikipediaより抜粋)

 

4.取り組みの結果

校内の空気が変わり、「いじめトラブル」ゼロに

当初23名で発足したTKRは、現在約450名の生徒のうち4割強にあたる200名程が隊員として参加しています(2015年3月時点)。パトロールは20-30名で行います。

学校内に「いじめは絶対にしてはいけない」という空気を作り、「やり過ぎだよ」「いじめになるよ」と子供同士でも言いやすくなりました。教師への連絡もしやすくなりました。傍観者になる必要がなくなったのです。「いじめの芽がでたらすぐに解決」を実現し、TKRが発足してから年に数件発生していた「いじめトラブル」はゼロになりました。

こうした活動の中でも、大人の支えは欠かせません。「時間をとって聞く」「真剣に聞く」など小さな行動が大人の本気の姿勢を見せることになります。具体的な防止策などを打つ際も、アクションに移していく際も必要となります。

 

5.まとめ

今回紹介した取り組みの着眼点として、とても良いと感じた点を以下3つにまとめます。

(1)複数名で関わり取り組んでいること。

何に於いても一人で出来ることは限られています。

(2)子どもの主体性を尊重。

まずは子どもの意見や事情を聴く姿勢です。「子どもの意見」を「大人が両手を広げて聞く」姿勢が大事です。

(3)継続性をもたせる仕掛け

ブロードキャスティング、辰ピー、テーマ曲など、楽しく能動的なものと感じられる仕掛けです。

 

大きなテーマである「事前防止」に焦点をあわせた場合、まずは「人の目(知ること、見ること、目をそらさないこと)」が入口として大切です。その次に、等しく「人の気持ち(いたわり、良し悪しを感じられること)」が土台として不可欠と考えられます。そして知り、感じ得たことをシンプルに行動に移せる環境が必要と考えられます。それらが連動し、初めて「事前防止」へつながっていくでしょう。

これらがうまく噛み合っていけば、事前防止を実現しながら自身の「誇り」の積み上げになります。「ありがとう」と言ってもらえることが、声を掛けた側にとっても声を掛けられた側にとっても、そして子ども社会でも大人社会でも変わらず「人が明日へ向かえる力」になるのだと思います。

 

 

 

 


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