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市野敬介の市野敬介的こころ(2) ~クリスマスソングから「脱・傍観者」について考える~  

市野敬介氏に約1年ぶりに執筆いただきました

(前回の記事)市野敬介の市野敬介的こころ(1) ~結婚式場で大人のデジタルマナーを考える~

https://tsunaseka.jp/4184

 

2018年1月に執筆していただいて以来の記事となります。NPO法人企業教育研究会 理事であり、ストップイットジャパン株式会社のサポーターである市野敬介氏に、「脱・傍観者教育」についてご紹介していただきました。

 

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前回から1年以上のご無沙汰でございます。相も変わらず、独り身でおります。

 

この原稿は新元号が発表される直前の年度末に執筆しております。思い返せば30年前。改元後もしばらくは戒厳時のような雰囲気だったことが、当時小学生だった私の朧(おぼろ)な記憶の片隅に残っています。今回は、4月1日に新元号が発表され、5月1日から改元という、誰も経験したことない区切りの連続となります。どんな感じなのか、しっかりと記憶にとどめておこうと考えています。

 

STOPitのアプリと「脱・傍観者教育」

 

1年ほど前から、匿名で相談ができるアプリ「STOPit」(※)を導入されている自治体のお手伝いをさせていただく「STOPitサポーター」の役割をいただいております。「STOPit」は生徒が匿名で画像やメッセージを送り、教育委員会などの相談員に報告・連絡・相談ができるアプリです。

相談員と匿名でやりとりができる。「中学生のころ、このアプリがあったらどんなに良かっただろう…」と思いを馳せる日々です。導入されている自治体では、単にアプリを使える状態を整えるだけではありません。生徒に使用権限を付与する前に、出張授業として『私たちの選択肢』の「脱・傍観者教育」(※)をさせていただいています。

この授業では、冒頭にドラマを視聴します。同級生がいじめにあっている。その生徒にも反省すべき点があるが、現実はもっと多数の同級生がその生徒を冷遇し、SNSでは陰で悪口を言い合っている。これ以上ひどくなる状況は何とかしたいと考える主人公。しかし、これまでは一度も現実でもSNSでも発言したことがない。さぁ、あなたが主人公の立場だったらSNSに「この状況は良くない」と書き込むか、それとも書き込まないか。どちらの行動を選択するかを率直に決めてもらいます。

自分が行動して状況を打開するか、いじめの対象が自分に向き変わる可能性も考えて静観するか、大人でも判断に迷います。これを、中学生が考え、議論する道徳の授業です。

大切なことは、いじめの「被害者」「加害者」以外に、周りにいる「傍観者・観衆」が、なにか行動しようすれば、問題解決が早くなる可能性が高まります。傍観者が行動しやすいかどうかは、集団の雰囲気が大きく影響します。雰囲気に打ち克って「僕は嫌だ!」と傍観者にならず、何か行動することが肝要だ、と共通認識を持つことが「脱・傍観者教育」の目的です。「STOPit」は、その行動をしやすくするための一つの手段であることも添えて。このアプリが使われることの無いよう、普段の生活の抑止力になることも期待しています。

この原稿が公開されるころにはおそらく、私は茨城県の取手市内のすべての中学校の1年生の各学級を4月中に訪れ、授業の進行役を担うための準備をしていることでしょう。大人の想定を超えてくる中学生の発想に、毎時間、私も勉強させていただいています。

 

クリスマスが終わってからでいい。「脱・傍観者」の観点であの歌を

 

時は少し遡り、昨年12月の下旬、幼稚園や保育園の先生方が集まる研修会で講師を務めさていただく機会に与りました。スマートフォンやタブレットの利用が0歳から始まる家庭が増えている現況をどのように考えるべきかが主題です。

12月に入り、電車を待つ空き時間に立ち寄った喫茶店。歌詞の無いクリスマスソング集がBGMとして流れています。耳を澄ませていると、ある一曲がワンコーラス 流れ終わった刹那。「これだ!」私は思わずハッと立ち上がり、幼稚園や保育園の先生方にぶつけてみたい問題提起が決まりました。

研修会の時期は、冬休みに入る時期。幼稚園や保育園でも、数多くのクリスマスに関連する「お歌の時間」があったことでしょう。その熱気も冷めやらない中で会場にお越しいただいた先生方を研修室に閉じ込め「Let’s sing!」と煽って合唱したのは『赤鼻のトナカイ』でした。

いつもみんなの笑いものにされていた一頭のトナカイが、クリスマスの日にサンタのおじさんから声をかけられて自尊心を取り戻す、定番の一曲。おそらく、幼稚園や保育園のおともだちは、屈託のない笑顔で『赤鼻のトナカイ』を熱唱されたことでしょう。

しかし、「脱・傍観者」の観点から歌詞を吟味すると、それはちょっとした残酷物語。「サンタのおじさん、クリスマスよりもっと早く、周りのトナカイが笑いものにしていた段階で声をかけられなかったのか?」「周りのトナカイで“笑いものにしてはいけない”と声をあげる者はいなかったのか?」といった問いが立つはずです。

「この歌を、クリスマスだけで終わらせるのはもったいない。年が明けてからでもいい。ぜひ、それぞれの幼稚園や保育園で、子供たちともう一度この歌を歌ったあと、歌詞の意味を考える機会をつくっていただきたい。」という問題提起をさせていただきました。

 

「終わり良ければ総て良し」「これにて一件落着!」は物語の中だけで

 

考えてみると、昔話や民話、時代劇にとどまらず、現代劇やアニメや特撮でも「誰かがもっと早く動けば、臍(ほぞ)を噛まずにすんだ人がもっといたのでは?」という話が多すぎますな。これは幼児向けも青年向けも高齢者向けも、世代や洋の東西を問いません。

エンターテインメントの世界では、虐げられる振れ幅が大きいほど、最後の「百倍返しだ!」がド派手に決まり、観衆が得るカタルシスが大きくなります。弓を強く引けば引くほど、矢は鋭く飛んで深く刺さるように。

一方で、わかりやすい「勧善懲悪」の世界だけではない現実社会では、なるべく早く問題解決が行われることが求められているはず。「脱・傍観者教育」の授業をさせていただけるのは、長い期間をかけて刷り込まれている文化との闘いなのではないか。毎年、さまざまな地区の中学生と議論する「脱・傍観者教育」を楽しみながら行っています。

 

しかし、相も変らぬ独り身では文化と闘い続けることは難しい…。「なあおまえ、出会いちゅうものは、そんなに甘いもんやおまへんにゃ。みんなが勧めたはる”マッチングアプリの傍観者”から脱して、もっとまじめにやれーー」という天の声が降ってくるわけですが、聞こえないふりをして、本稿を閉めさせていただきます。

 

 

(※)ストップイットジャパン株式会社が提供している「STOPit」のアプリや「脱・傍観者教育」の情報は、こちらからご覧いただけます。
http://www.stopit.jp/workshop/

 

 

執筆者プロフィール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市野敬介(いちのけいすけ)

NPO法人企業教育研究会 理事
千葉県青少年を取り巻く有害環境対策推進協議会 代表
地域教育推進ネットワーク東京都協議会 プログラムアドバイザー
ストップイットジャパン株式会社 STOPitサポーター
全国教室ディベート連盟 副理事長 大会運営委員長
長岡造形大学 非常勤講師

 

NPO法人企業教育研究会は、学校・企業・大学を結び、誰もが教育に関わり、貢献することができる社会をめざして授業づくり、教材づくりを行っています。

https://ace-npo.org/

 

 

 

記事担当:青木


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