「インターネット利用アドバイザー」ってどんなことをするの? 一般財団法人インターネット協会の取り組みシリーズ(1)
今回から「インターネット利用アドバイザー」(以下、アドバイザー)の活動について、シリーズで記事を提供します。
執筆者は、1期~10期までのアドバイザーの中から有志数名と、一般財団法人インターネット協会の大久保貴世氏に、第1回と第2回を担当していただきます。
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アドバイザーとは、一言でいうと「インターネット利用について安心・安全の観点から適切なアドバイスが行える人」で、一般財団法人インターネット協会が実施する称号付与制度です。どのような人がどのような活動をしているのかが、興味がありますよね。
アドバイザーになるためには
今から12年前の2006年1月よりアドバイザーの称号付与制度をはじめました。
初回は報道発表を行ってマスコミから周知してもらいました。 前例がありませんので、受験してみたいと思った方は、「アドバイザーの称号をもらうと、何だか良さそうかも」と期待を抱いていたのではと想像します。
多くの業種の方々より受験いただきました(補足:受験者数は公開していません)。例えば、会社でインターネット部門を担当している方、プロバイダのカスタマーサポート部門で相談業務を行っている方、消費生活相談センターの相談対応をしている方、個人運営のパソコン教室の先生をしている方、学校の先生、医者、主婦の方などです。
合格者の人数は公開しており、1回目の合格者は28名です。合格するためには3つの関門をくぐらなければなりません。
【第1関門:検定試験】
インターネット協会のルール&マナー検定 大人版を、ウェブで100問解いてもらい、スコア90問以上を取得すること。設問は、モラル、ルール、マナー、安全利用、スキルの5つの部門から、選択方式で出題されます。例えば以下のような設問です。
例題1
他人に知られてはならない大切なパスワードを設定する場合、もっとも好ましい素材を選びなさい。
例題2
さまざまな人々に開放されている掲示板やメーリングリストの議論では、自分と異なる考え方に出会うことはまれではありません。こうした考え方に接する際の望ましい姿勢を選びなさい。
例題3
自分で作成したウェブページから、他の人や会社のウェブページにリンクしたいと思います。著作権侵害となる可能性のある行為を選びなさい。
【第2関門:論文試験】
2つの論文を書いてメールで送ってもらいます。各2、000字程度です。
テーマ1
子どものインターネット利用における注意点と安全対策についてあなたの考えを述べなさい。(第1回の例)
テーマ2
アドバイザー受験の動機と合格後の計画
【第3関門:面接試験】
インターネット協会(東京都文京区湯島)に来てもらって、面接を行います。
面接員:学識経験者など2名
時間:15 分~20 分程度
内容:提出いただいた論文の内容確認、およびいろいろ質問します。
3つの関門とは、知識があること、書けること、話せることです。最終的な合格の決め手は何だと思いますか?はじめの1回目の受験者には、それはそれはいろいろな方々がいらっしゃいました。
話をしっかり聞いているかどうか
実は、合格の大きな決め手は「話をしっかり聞いているかどうか」なのです。面接試験でわかることですが、不合格者には例えばこういう方がいらっしゃいました。
・面接官の質問に答えていなくて、自分の言いたいことしか言わない
・面接官の話を最後まで聞かないで、話している途中で自分が話し始める
・抽象論を話す
・話が長い
冒頭で、アドバイザーとは、「インターネット利用について安心・安全の観点から適切なアドバイスが行える人」と話しました。インストラクターとしての要素も大切ですが、それよりもアドバイザーとしての要素の方を大切としています。
理由は、インターネットを利用する方は知識レベルや使用方法が千差万別ですから、さまざまな方々からの質問に対して、難しい話や説教をするようでは、せっかくの楽しいインターネットなのに、インターネットを嫌いになってしまいかねないからです。
なので、ちゃんと相手の話を聞いて、相手の目線で適切にアドバイスができるかどうかが重要なのです。基本的なことですが、けっこう難しいかもしれません。
アドバイザーの合格者
3つの関門を通過した合格者は、研修を受講してアドバイザーの称号を付与します。はじめての研修プログラムの中に、先輩アドバイザーたちの前で10分間のデモ講演を行ってもらうコーナーがあるのですが、ここで緊張感を味わってもらうことと、講演内容についての指摘を受けることを目的としています。
称号の有効期間は3年で、更新を希望される方は3年ごとの研修受講により更新ができます。都合により研修会場に来られない方のために研修ビデオを撮影し、YouTubeで見られるようにもしています。
アドバイザーの活動内容
2回目以降、合格者数は少なくなりましたが、10期目の新人を迎えて、現在のアドバイザーは56名です。1回目の受験者が多かったのは、アドバイザーになったら仕事を紹介してくれる、という期待を持った方が多かったようです。期待を持たせてしまって恐縮ですが、そうではありません。
自身の職場や学校、地域などで適切なアドバイスが行える人材であることを、この称号を得ることにより社会的に明らかにし、活躍を促進するためなのです。
もし仕事を探している場合には、例えば就職活動などでアドバイザーだと話すことが、応援材料になってくれることを期待しています。
56名はどのような活動をしているのかというと、2パターンです。バリバリに講演等の活動をしているか、していないか、に分かれています。
事情があって活動できないことを申し訳ないと言われる方もいますが、何かしなきゃいけないと思わなくてもよいのです。活動のきっかけがつかめないと相談される方もいて、講演に随行してもらったり会合に同席してもらったりして、そこで関係者を紹介することもあります。
今後は、以下のような活動で、講師として対応可能な方や、インターネット協会の事業に協力いただける方も増やしたいと思っています。
講演活動
講演活動こそがアドバイザーの真髄と言ってよいでしょう。ほとんどが毎回新しい受講者で、おそらく新しい質問も受けて対応することになるはずです。
インターネット協会からアドバイザーへ講師依頼を行う方法と、直接、地域の学校等からからアドバイザーへ依頼をする方法があります。はじめにインターネット協会から講師依頼をし、その後アドバイザー宛に直接依頼が続く場合が多くなっています。
例:東京都、新潟県、神奈川県、滋賀県、兵庫県、等
マニュアル作成
知識と執筆能力を活かして、初心者向けのSNSマニュアル「知っておきたいその時の場面集」の執筆を依頼します。現在2名のアドバイザーにて担当してもらっています。メディア指導員研修会や保護者会、相談機関などで活用いただいており、2017年2月に公開したFacebook編は、多い時で月10万件ものアクセス数がありました。
検定試験問題作成
インターネット協会の「インターネットルール&マナー検定」の新しい問題の作成を依頼します。希望者を募ってこれまで5名のアドバイザーに担当してもらいました。「選択方式の問題について、正解は簡単に作れるが不正解を作るのが難しかった」という感想もあり、苦労するからこそ作り甲斐があることと思います。
ヘルプデスク対応
インターネット協会が受託事業を受け、条件を満たすアドバイザーに依頼します。現在1名のアドバイザーに担当してもらっています。
例:東京都「東京子どもネットケータイヘルプデスク」
アドバイザー交流の場
アドバイザー同士の交流として、2016年12月にFacebookページを開設しました。各々の活動状況を投稿してもらって、成功話や苦労話を知ることができます。
#アドバイザー限定ページなので、ここでは紹介できないことをご容赦ください。
ご興味がございましたら、ぜひ受験をご検討ください。毎年7月~10月の期間に行っていまして、詳細は4月頃にウェブサイトでご案内予定です。
次回(第2回)は、講演先での経験談についてお話しする予定です。
大久保貴世(おおくぼたかよ)
一般財団法人インターネット協会 主幹研究員。
インターネットのルール&マナーの普及啓発、主要SNSやフィルタリングのマニュアル「その時の場面集」の作成公開、東京都が開設した 「東京こどもネット・ケータイヘルプデスク」での相談対応 などに取り組んでいる。
相談事例から見えてくるトラブルの事前予防策や トラブル後の対処法を広く周知するため、保護者・青少年・教職員向けの 講演やテレビ、YouTubeなどに出演もしている。
委員実績:
警察庁「児童の安全・安心なインターネット利用に資する方策に関する研究会」
文部科学省「消費者教育推進委員会」
東京都墨田区教育員会「いじめ問題専門委員会」など。
シリーズ担当:青木