世界とつながる時代の子どもセキュリティ解説メディア

つながる世界の歩き方

淫行を処分できない? 『青少年保護育成条例』制定の動き 長野県

『青少年保護育成条例』は、地方自治体で公布する条例の統一名称です。青少年の保護育成とそのための環境整備を目的とした条例です。統一名称ということですが、青少年保護条例や、青少年健全育成条例という名称の場合もあるようです。

出会い系や淫行、わいせつ行為などによる容疑者逮捕のニュースなどで、何度か耳にしたことのある方もいらっしゃると思います。条例なので、自治体ごとに制定するものです。

実は長野県は、47都道府県の中で唯一、この『青少年保護育成条例』が制定されていない県です。
いま、この長野県で、『青少年保護育成条例』制定の動きが出ています。(全文の閲覧には朝日新聞DIGITALの会員登録が必要です)

 

今回、総務省OBで、1期目の阿部守一知事が「インターネットなど子どもを取り巻く環境が激変しているなかで、将来に向けて何が必要か議論を」と、設置した「子どもを性被害等から守る専門委員会」の中で、「条例が必要ではないか?」という話になったことがきっかけです。

ちなみに、県では制定していませんが、長野県内の市町村では制定しているところもあります。
長野市、佐久市、東御市、塩尻市で制定されています。このうち東御市で、2013年の春に、中学と高校の教諭が女子高校生にみだらな行為をしたとして、相次いで逮捕されました。それを受け、前述の「子どもを性被害等から守る専門委員会」が設置されています。

 

教職と生徒とのわいせつ行為と言えば、「教職の免職処分がH24年に200人を超えた」という報告が、先日注目を浴びました。毎年年末に文部科学省から報告される、『公立学校教職員の人事行政状況調査について』で報告される内容です。(H25年12月報告:H24年の状況はこちら

なんと、懲戒免職の理由として最も多いものが、”わいせつ行為等“で、119人でした。これは過去最高の人数とのことです。わいせつ行為で懲戒処分を受けた人数は、免職119人、停職35人、減給11人など合わせて計186人となっています。さらに、被害者は免職になった”教職員が勤めていた自校の児童・生徒“が最も多く、49.4%を占めています。

以前、Filiiについて議論させていただいた方の中に、「SNSで交流している大人が教師だからと言って、安心できない。第三者から見えないネット上の交流を分析の対象にすることは、今後のネット社会の中で本当に重要な施策だ。」というような事をおっしゃっていた方がいました。まさに、ですね・・・。 ※ 教職の方を貶める意図ではありません。念のため。

 

なぜいままで、制定されなかったのか?

 

さて、長野県の話に戻します。なぜいままで制定されてこなかったのでしょうか?

長野県で一番初めにこの条例が議題に挙がったのは、1966年だそうです。
当時の西沢権一郎知事が「条例には頼らずに住民一丸となって青少年を守る」と、議会で答弁しました。
それ以来、この方針が引き継がれていったそうです。47年も。

 

なぜいま、制定することにしたのか?

 

ここにきて、大きな問題が起きました。
2012年6月の県議会で、長野県警の佐々木真郎本部長が、「条例がないため摘発できなかった事例が散見される」と県に制定を求める答弁をしました。児童福祉法違反とか、いわゆる”淫行罪”という扱いにはできなかったのか?という疑問はありますが、詳細はわかりません。ともかく、「条例がないと摘発できないケース」というものがどうもあるようです。これは大きな問題です。

また、同様に佐々木真郎本部長の話では、「インターネット上に『長野県内のホテルに少女を連れ込むことは条例や法律に違反しない』という趣旨の書き込みがあった」とのことです。2013年の投稿ではありますが、NAVERにそれに類する主旨のTwitterでのツイート(投稿)がいくつかまとめられています。(長野県には未成年者の淫行を禁止する条例がない!

 

制定するかしないか 何を議論しているのか?

 

本来規制されるべきではない、自由恋愛を規制してしまわないか?という議論がされています。
例えば、高校生同士の18歳(高3)、16歳(高1)で交際していた男女が、学年があがり、19歳(大1)、17歳(高2)になったとします。このとき淫らな行為を行った場合、19歳の大学1年生は、18歳未満に対して淫行を行ったと解釈されるかもしれない、という話です。※ 高校生同士ならいいのか、という話はここではおいておきます。

これは、「制定する/しない」という話ではなく、「どのような条文にするか?」で議論すべき内容だと思います。神奈川県の条例がこの点を考慮しているので、引用して掲載します。

「みだらな性行為」とは、健全な常識を有する一般社会人からみて、結婚を前提としない単に欲望を満たすためにのみ行う性交をいい、同項に規定する「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激し、又は興奮させ、かつ、健全な常識を有する一般社会人に対し、性的しゆう恥けん悪の情をおこさせる行為をいう。

また、「処罰規定よりも、性教育やネットの危険性を知る情報教育が重要ではないか?」といった議論がされています。

優先順位の議論をしているように聞こえはしますが、制定するかどうかはまだ未定のようです。
委員会は、年度内に報告書をまとめる方針だそうです。

 

青少年保護_長野駅前

長野駅前

県民はどう捉えているか?

県民はどう捉えているでしょうか。県は2013年6月に調査を実施(回答822人)しました。結果は下記表の通りで、<今後強化・導入すべき性被害の防止策>(複数回答)の上位に選ばれたのは、「ITリテラシ教育」、「性教育」、「子どもと保護者への啓発」でした。「県による条例制定」は7番目でした。

 

今後強化・導入すべき性被害の防止策について(n=822) あてはまると考える人の割合(%)
インターネットやスマートフォン等の適切な使用方法の子どもへの教育 60.8
教育現場での性に関する指導(性教育)の充実 52.8
子どもと保護者への啓発 47.8
道徳教育の充実 45.7
家庭や地域の教育力の再生 40.9
業界の自主規制の強化 30.7
県による新たな条例による規制 26.8
国の法律による規制の強化 21.7
その他 7.4
無回答 1.3

 

この3つ前(回答によっては2つ前)の問い、<子どもの性被害が悪化又は深刻化している原因について>の選択肢の中に、『県による条例の制定がないため』というような項目が無く、「ネットの普及」、「教育」、「道徳観」という選択肢になっているので、これに回答した回答者(全体の47.6%)がそちらの方向に引っ張られている可能性があるかもしれません。

<子どもの性被害が悪化又は深刻化している原因について>の選択肢

  • インターネット、スマートフォン等の発展・普及
  • 大人の道徳観の低下
  • 家庭や地域の教育力の低下
  • 子どもの道徳観の低下
  • 社会の環境変化によるストレスの増加
  • 分からない
  • その他
  • 無回答

調査によるランク付けはあるにせよ、少なくとも26.8%の県民は必要だと思っているようです。

 

青少年保護_長野穂高

穂高連峰

全部やったらいいと思うのですが

 

「条例を作ると条例頼りになる。警察任せになる。」という話も出ていたようですが、その姿勢、どうでしょう。
ルール作ってそれだけで問題が解決するなら簡単ですし、絶対そのようにはなりません。ルールが何故必要なのかと当事者(この場合守られる側のこども)が理解できる教育・知識が必要ですし、併せて普段から住民一丸となってこどもを守っていくという姿勢はこれからも崩すべきではないと思います。

そのためにも、打てる手は全て打ったらどうでしょうか。優先度、リソースの問題はあるでしょうが、いま、必要だと思って議論しているのなら、ある程度の規模の予算やリソースを割いて、多面的に取り組んだり、いま優先順位を決めて、長期的に広く対応するようなアクションプランを考えたらどうでしょうか。

 

阿部守一知事が「インターネットなど子どもを取り巻く環境が激変しているなかで、将来に向けて何が必要か議論を」と言っているように、このこどものネット問題は大変深刻な問題です。それゆえ我々も、Filiiを提供し、情報モラル教育などを主要な業務として、エースチャイルド株式会社を設立しました。

 

年度内にまとまる報告書、次年度以降の動きに注目です。

 

  • Twitter履歴

  • アクセスランキング

  • 月別記事

  • Archives